日本工作機械工業会(会長=飯村幸生 東芝機械会長)が1月11日、都内のホテルニューオータニで賀詞交歓会を開いた。
「世界の工作機械産業を巡る環境は大きな技術的変革期を迎えている」
あいさつする飯村会長 あいさつに立った飯村会長は、「昨年5月の定時総会で発足した新体制のもと、前期に引き続き、委員会活動をはじめ順調に展開することができた。心よりお礼申し上げる」と日頃のお礼を述べたあと、「2017年の世界経済は前年を上回る成長を示し、拡大局面を辿った。しかしながら世界各地域で地政学的リスクも不安視されており、これに起因した急激な為替変動の可能性も懸念される。現在の世界は先進国で構成するG7や、これを広げたG20といった国際協調体制が機能しにくくなった、いわばGゼロの時代を迎えている。保護主義的な気運の広がりも懸念される。私どもの自助努力の及ばない外部的要因のリスクにより不透明感が見え隠れしている状況下といえる。」と内外情勢について触れ、「このような情勢下にあっても世界の製造業はこれを相殺してなお余りある状況であり、未来への投資を着実に進めている。」と景況感について感想を述べた。
2017年の工作機械受注額については、「年初から内外需ともに総じて順調に推移した。年間受注額は暦年修正見通し、9月に修正を行っているが1兆5500億円程度を上回り、2007年に記録した過去最高である1超5900億円をも超えて1兆6000億円をゆうに達したものと見込まれる。」とした。
2018年の受注額見通しについて、「世界の市場環境は総じて好調に推移するものと見込まれるが、先述のとおり地政学的等のリスクを内包した、好調ながら脆弱な展開になると予想される。内需については、ものづくり補助金をはじめとする政策の後押しもありIoT関連需要による半導体分野への投資や、自動車の環境対応や電動化に、自動運転に関連した投資の盛り上がりが見込まれる。自動化ニーズを背景としたロボット等、各種自動機器の生産需要もさらに高まると思っている。外需については、10年間で1.5兆ドルの減税法案が承認された米国で、製造業の国内回帰に伴う投資や、大型インフラ投資が見込まれる。欧州では、リーマンショック以降停滞していた投資の顕在化やインダストリー4.0への対応需要が期待をされる。中国では、中国製造2025を受けた高度化投資や、自動車のEVシフトに関連した投資が出てくると考えている。」とし、これらの背景を踏まえて、2018年の日工会受注額は、「1兆7000億円の見通しとしたい。業界各社におかれては、受注獲得に向け鋭意邁進していただきたい。」と力強く述べた。また、賀詞交歓会に先立って臨時理事会を開催し、適正な下請け取引の推進と、取引先の生産性、付加価値向上を支援するための自主行動計画を審議し、了承したことを報告した。
飯村会長は工作機械業界を取り巻く環境の変化についても、「世界の工作機械産業を巡る環境は大きな技術的変革期を迎えている。」とし、「様々な繋がりによって、新たな付加価値の創出や、社会課題の解決を目指す、我が国のコネクテッドインダストリーズをはじめ、ドイツのインダストリー4.0、アメリカの インダストリアルインターネット、中国の中国製造2025などIoTを活用して、スマート・マニュファクチャリングの実現を図る取組みが、世界各国で競われている」と話した。「3次元積層造詣装置の技術も、積層プロセスの選択肢広がり、実用化の段階に入ってきている。自動車の電動化の進展や、航空機産業の成長に伴う難削材需要の増加によって需要構造面でも大きな変化が展望される。生存競争では、強い者が勝ち残るとは限らない、環境変化に適応できたものが生き残れる、とはよくいわれるところである。工作機械業界各社におかれては、ユーザーニーズに応えた製品、技術を積極的に市場投入して市場投入することにより、この環境変化をビジネスチャンスに結びつけていただきたい」と期待を込めた。
今年の日工会に活動については、「環境変化に対応し、将来にわたって日本の工作機械の国際競争力を強化しあっていくための方策を積極果敢に展開していきたい。」としたうえで、日工会が2012年に取りまとめた“工作機械産業ビジョン2020”で中期的視点から課題として抽出されたわが国工作機械産業が対処すべき、(1)JIMTOFの求心力の強化、(2)産学官連携の強化、(3)標準化戦略の強化、(4)人材の確保・周知策の徹底――の4つの課題を深化発展させるとした。
具体的には、本年の工作機械最大のイベントであるJIMTOF・Tokyo2018を国際性豊かに開催すべく間断なく万全な準備をすすめる。今回のJIMTOFは11月初めに東新展示棟を含めた東京ビッグサイト全館を使用して開催する。テーマは、コネクテッドインダストリーズの構想を念頭に“つなぐ”をキーワードにして最先端の工作機械技術、製品を世界に発信していく。併せて全国から学生を招待する“工作機械トップセミナー”や最先端のものづくりを紹介する企画展示をはじめ、社会一般の工作機械産業への認知度向上を促す施策を展開する。技術分野については、産学官が連携して、研究開発や国際標準化に関する戦略的活動を展開し、その成果については会員企業に対して幅広く情報提供に努める。
人材事業では、少子高齢化に対応した人材確保策の展開に加え、専門領域の多様化に対応した人材育成や研修事業についても体制づくりを進めていく。
飯村会長は、「当会では、市場調査、国際、経営、環境、輸出管理等多くの委員会・研究会で事業を展開している。これらの活動を通じて、業界に共通する付加価値の高い情報を発信していきたい。また、2021年に創立70周年を迎えるが、これに向けて、技術や需要構造、国際競争環境の変化に対応した2020年代の、我が国工作機械産業の、新たな展望を描いていかねばならない。本年は、その戦略策定に向けて、IoTに関連する技術分野や自動車の電動化といった需要構造分野の情報収集を進め、2020年代の、工作機械業界の戦略を策定するための体制整備に着手していきたい」と将来の工作機械業へ向けて意気込みを示した。
「2018年は大きな変革とチャレンジの年」
経済産業省 多田 製造産業局長 来賓を代表して多田明弘 経済産業省 製造産業局長が、あいさつをした。
あいさつの概要は以下の通り。
「全体として好調な業況の中で新しい2018年に将来を見据えた次の一手、次の次の一手を着実に打っていく年にしたいと願う。政府全体としては生産性革命、人づくり革命を柱に、先般の補正予算、投資予算、税制改正といった新メニューをつくっている。ぜひ皆様方にはこれらを有効に活用していただき、将来に向けた投資をお願いしたい。一口に投資といっても、皆様方の業界に関係ある設備投資もあるが、研究開発投資、人材投資、様々な次の一手の幅があろうと思われる。現在、製造業を取り巻く状況は、デジタル革命、地球環境、温暖化の問題、さらには自動車業界を巡る様々な問題など環境変化が伴っているとこであり、次の一手は何が正しいのか、は非常に難しいところであろう。こうした中でわれわれが提案しているのはコネクテッドインダストリーズの考え方である。単独の会社のみ、ひとつのリソースだけで全ての問題の解決を望んでいくのは難しいかもしれない。同時にIoT、AIの世界の中で、新しいデータの蓄積、ビッグデータの存在が出てきている。これらをどう活かして競争力に繋げていくのか。私は工作機械業界について、ずいぶん前からハードとソフトと一体となった様々な開発を進めている先端的な業界だと思っている。まさに新しい工作機械を伴ったサービスを世界に発信していただきたい。こうした中で工作機械業界の発展もあり、マザーマシンを使っている日本の製造業あるいは世界の製造業全体の底上げになっていくと信じる次第である。
TPP11も日EU・EPAもある。早期の発行に向けて対外交渉もしっかりやっていく。併せて最近懸念が高まっている中国の輸出管理においても懸念が実際のものにならないよう、国際ルールを逸脱したものにならぬようしっかりと関係国と連携して対処していきたいと考えている。
2018年は大きな変革とチャレンジの年にしていただきたい。
実は年末に本屋に立ち寄ったところ、ある経済誌の表紙が目に止まった。表紙には日本語と英語があったが、日本語では“日本人よ、まだまだクレイジーさが足りない”と書いてあった。時間がなかったのでそのまま立ち去ったが、推察すると、日本の産業・社会、あるいは国民といってもいいかもしれないが、これまでの成功体験に基づいて従来の延長線上で少しずつ良い改善をしていくことはうまくいったが、突然アッと驚かせるような取り組みがやや少ないのではないか。それをクレイジーさが足りないという表現がいいかどうかは私には分からないが、私は当たらずとも遠からずかな、と思っている。これまで成功のベースとなってきた様々な前提や諸条件をもう一度疑ってかかってみる。これが本当に5年後に本当に同じようになっているだろうか。そういったことをぜひ考えていただけたらと思う。
3つお願いしたいことがある。1つ目はスピードあるアクション。答えが分かりにくい、何が勝ち筋か分からないからといって議論ばかりをしてアクションが伴わなければ前に進まない。2つ目はこれまでの前提を疑ってかかった大胆な挑戦。3つ目は、事業にはそれぞれ歴史がある。個性ある経営をお願いしたい。
日本の製造業について、様々なことがいわれているが、私は創業の精神に思いを致して先人達が奮闘した歴史に最大限の敬意を払いながら、新しい時代でなにが求められているのか、なにが売れるのか、と正面から取り組み、新しい提案をすることができれば日本の製造業、工作機械業界の将来は必ずや明るいものになるだろうと信じている。」