ヤマザキマザック(社長=山崎智久氏)が、このほど工場に革新をもたらす独自のCNC装置『MAZATROL SmoothX(マザトロール スムースエックス)』を発表した。
1981年に業界初の対話型CNC装置を投入し、業界に旋風を巻き起こした『MAZATROL』。今回発表した『MAZATROL SmoothX(マザトロール スムースエックス)』は30年以上に及ぶ独自技術が搭載され、今回で第7世代となる。
この商品は本年10月30日から東京ビッグサイトで開催される「JIMTOF2014」で販売を開始するが、これに先立ち、先日記者発表会が開かれた。同社では、この製品について、「創造力によるNC装置開発製造の集大成とも呼べる」としており、新たに19インチのタッチパネルを採用するなど操作性の飛躍的な向上や加工時間の大幅な短縮、そして工場経営のサポートまでを“スムース”に行うCNC装置として満を持して市場投入する。
製品の歴史を踏まえながら技術的な優位性についてレポートする。
MAZATROLの歴史と、生産現場を取り巻く状況
ヤマザキマザックが工作機械をコントロールする同社独自のNC装置を搭載したのは1981年。これ以前のNC装置といえば工作機械をコントロールするプログラム専用の言語とプログラムの作成が必要だった。専門知識を有するオペレータでしかプログラムすることのできなかったEIA/ISOプログラムを人間言語による対話式プログラムにし、切削条件など自動決定機能の採用で経験の浅いオペレータでもCNC装置の誘導に従って簡単に加工プログラムを製作できるようにしたのが始まりである。今から30年以上も前にデビューした『MAZATROL』は、当時、斬新で画期的な対話型NC装置として旋風を巻き起こした。
最近の生産現場を取り巻く状況について北山 稔 常務執行役員 営業本部長は、「先進国の生産人口の減少もみられ、熟練工も不足している。新興国へ生産のシフトもあるが、賃金の高騰や品質問題もあり、一部は先進国に回帰する動きもある。工作機械はスマートフォンのような超量産に適したモノから、航空機やメディカルなどの一品ものまで、両極端な要求に応えていかなければならない環境にある」と説明。そこで同社が目指すものを「高機能、高生産の追究である」とした。
「多様な機能を持つことで工程集約を図る複合加工はもちろん、職人の五感に置き換わってマシン自体が感知して自らアクションを起こすマシンのインテリジェント技術も進化する。また、工場全体の機械を手に取るようにみえるようにするインターフェースや、生産から経営までサポートするトータルソリューションの追究もしていく」(北山営業本部長)
MAZATROL SmoothXの技術的優位性 ①操作性の飛躍的な向上
今回発表した『MAZATROL SmoothX』には、①操作性の飛躍的な向上、②加工時間の大幅な短縮、③工場経営のサポート――の3つの優位性が挙げられた。
岡田 聡 常務執行役員 技術本部長は、ハード的な特長を、「従来操作盤に搭載しているキーボードがなくなった。スマホやタブレットを操作する感覚で機械のオペレーションができるイメージです。キーボードは入力時に自動表示し、3Dモデル操作もスマホ・タブレット感覚で移動や回転、拡大や縮小が自由自在。薄くフラットな操作盤形状は、身長の高い低いに関係なく、オペレータの使いやすさを考慮したエルゴノミクス・デザイン(人間工学に基づいたデザインのこと)であり、自由な角度調整ができるようになっている」と説明した。たしかに身長の低い方が操作する場合、脇が高い位置で操作をするとなると非常に疲れる。一方、身長の高い方も角度を合わせれば楽な姿勢が保てる。いずれにせよ、作業者は脇を閉めた状態にしたほうが疲れにくい。ちなみに、タッチパネルの大きさは19インチだが、このサイズを採用した目的を岡田技術本部長は、「一目みたときに右から左まで一目でわかる。一目でいろんな情報が得られるサイズ」だと応えている。
3Dモデルによる全く新しい対話型プログラム作成について説明があった。
ツールパスをタッチすればEIAプログラムの該当箇所へ瞬時に移動する「QUICK EIA」機能、加工形状や工程を確認しながらプログラムすることでプログラムミスを防止する「QUICK MAZATROL」によりプログラム作成時間の短縮をすることができるとのこと。また、5軸加工の動きを完全に再現する高速リアルシミュレーションにより加工シミュレーションの時間が大幅に削減できるようになった。
従来は図面を見て、そこに書いてある数字、例えば径はいくつか、長さはいくつか、と数値入力していたが、新商品である『MAZATROL SmoothX』にはその煩わしさがなくなった。ユーザーの3Dデータを入れ込み、その3Dデータをそのまま使って即座にプログラム変換する。このような新しいプログラム作成方法の採用で、プログラム作成のキー操作が8割も削減されたという。また、従来はプログラミングをしたあと、どのような形状にプログラミングされたか――という形状を確認する部分が別々の画面で存在していたが、この点についても、「従来、いちいち切り替えながら作業をしていたが、対話とプログラムを組む、加工工程、プログラムに合わせた3D形状、プログラムに合わせた3D形状、プログラムをしたあとのワークの形状が揃って表示され連動される仕組みであり、オペレータがなにをしようとしているのか、入力ミスがあったのかどうなど、一目で確認できるように見える化をしている」と岡田技術本部長。なかなか頼もしいシステムである。
MAZATROL SmoothXの技術的優位性 ②加工時間の大幅短縮
『MAZATROL SmoothX』のプログラムの革新はこれだけではない。
例えば穴加工の場合を例にとると、同じような穴がいくつもあいているような場合は、ひとつの穴をタッチすると、同じ形状の穴が全部拾い上げられる。それをインプットすると、全て同じ形状の穴のプログラムが完了する。従来のように図面をみて、X、Y、Zと座標をチェックしながら同じような形状の穴を何回もプログラムすることは不要になったのだ。
3Dデータからダイレクトにプログラムを作成することで、プログラムミスや入力ミスもなくなる。3D形状がしっかりしていれば間違うこともない。ポカミス防止に非常に簡単かつ有効な機能である。
細かいことだが、サーボ制御のハイゲイン化とCPU能力アップにより、基本制御性能が従来比4倍に跳ね上がっているのも嬉しい。また、5軸加工がスムースになるという新加工機能には、独自の簡単チューニング技術が搭載されていた。
“コーナー滑らか制御”では、コーナー部の不要な減速を排除することで、振動低減、切削面の形状精度向上と加工時間を短縮する仕組みが盛り込まれている。振動する軸の組合せに応じて最速な加速度が選択でき、加工時間を短縮する。また、加工物の形状や加工方法に合わせて、ユーザー自身が画面上で簡単チューニングでき、機械の性能を最大限に引き出す。
MAZATROL SmoothXの技術的優位性 ③工場経営のサポート
工場経営サポート機能のメリットは、オープン化によるデータ一括管理・生産システムの統合だ。データ内容の公開により、ユーザー独自のアプリケーション開発も可能になる。オフィスのパソコンで設備の稼働状況やメンテナンス情報を一括管理・分析してくれるうえ、稼働実績のグラフ表示や計算機能付きという生産性の改善に向けた機能も充実している。スマホやタブレットなどの外部端末から設備の稼働状況を監視できることも嬉しい。なお、異常発生や加工完了時にはメールで通知し、注意を促してくれる親切機能も付いていた。
同社では、「『MAZATROL SmoothX』を単なる対話型プログラミング装置ではない。高能率・高精度加工を実現し、顧客の生産性向上をトータル・サポートする新しいシステム“Smooth Techonology(スムーステクノロジー)”を構成するコア技術のひとつとして位置付けている」としており、このテクノロジーは、以下の3つのコア技術により構成される。
①先進的な機械デザイン。
②進化したMAZATROLとソフトウェア群→MAZATROL SmoothXと工程支援ソフトウェア。
③先進的な技術サポート。
『MAZATROL SmoothX』は、10月30日~東京ビッグサイトで開催のJIMTOF2014で販売を開始し、マルチタスキングマシン(複合加工機)シリーズの『INTEGREX i』シリーズ、『INTEGREX e』シリーズ、5軸加工機『VARIAXIS』シリーズ、『VORTEX i』シリーズに搭載する。