産業技術総合研究所(理事長=中鉢良治氏)測定標準研究部門(研究部門長=千葉光一氏)長さ計測科 幾何標準研究室 渡部司上級研究員は、マグネスケール(社長=藤森 徹氏)と共同で超高精度な聴講分解能のロータリーエンコーダーを開発した。
今回開発したロータリーエンコーダーは、マグネスケールの高分解能ロータリーエンコーダーに産総研が開発したSelfA(自己校正機能付き角度検出器)の技術を応用したもので、これまでの市販品では達成できなかった360°の2の33乗(約86億)に分割した超高分解能、±0.03″(角度秒)の超高精度で角度を計測できる。このロータリーエンコーダーを組み込んだ工作機械で、複雑なエンジンブレードなどの加工を行うと、形状精度が上がるだけではなく加工面の表面粗さが改善され、研磨せずに鏡面加工を行える可能性がある。またタービン部品や風力発電の歯車のように大型化と精密加工の両立が必要となる部品の加工精度と生産性の向上が期待される。
なお、この成果の詳細は、英国科学雑誌「Measurement Science and Technology」に本年4月16日(英国時間)にオンライン掲載された。
開発の社会的背景と研究の経緯
工作機械、半導体の直接描画装置、精密測定機や光学部品加工機などの高分解能角度計測には、高精度、高分解能、高速応答のロータリーエンコーダーが不可欠だが、ロータリーエンコーダーにはメモリ誤差に加えて、機器の回転軸への取り付け時に発声する偏心誤差などの角度誤差要因があり、取り付け後のロータリーエンコーダーを用いて0.1″(角度秒)を超える高精度での角度計測や制御を行うことは困難だと考えられてきた。
マグネスケールでは、高速応答できる超高分解能ロータリーエンコーダーを開発している。
ロータリーエンコーダーの円盤状のメモリスケール(直径167mm)から出力される角度信号の分解能(角度信号パルスの数)は、通常は360°の一回転で数万パルスから10万パルスが一般的だが、マグネスケールのロータリーエンコーダーは200万パルス以上の分解能を達成している。ところが、メモリスケールとそのメモリを検出する検出ユニットが分離しているため、装置(例えばモーターや工作機械など)の回転軸に取り付けるときに、装置の回転軸中心と目盛スケールの回転軸中心の間に軸ズレ(偏心)が生じてしまう。偏心は角度誤差の要因となるため、利用時の精度を推定することが困難であり、超高分解能ではあるが高精度とはいえなかった。
産総研では、これまでSelfAの技術により0.1″(角度秒)の精度を持つロータリーエンコーダーを開発してきたが、数十万パルス以下の分解能を対象としており、超高分解能のロータリーエンコーダーに対するSelfAの技術の実証研究は行っていなかった。そこで両者は、超高分解能ロータリーエンコーダーにSelfAを適用する田モノ共同研究を行うに至った。
研究の内容
図1(左)に示すマグネスケールが新規開発した直径167mmの目盛スケール(一周あたりの穴子ル正弦波信号数:2の21=2.097.152)と図1(右)に示す分離型の検出ユニットを複数個用いて、SelfA機能を持つロータリーエンコーダーを製作。SelfAの自己校正機能を持つことで、検出ユニットが出力する角度信号に含まれる角度誤差をロータリーエンコーダー自体が高精度に検出し、補正することができる。このロータリーエンコーダーが検出できる角度誤差には、目盛誤差だけでなく、分離型のロータリーエンコーダーでは困難であった取り付け時の偏心による角度誤差も含まれているため、取り付け後の誤差も検出できる。目盛スケール上の目盛の感覚は1µm。検出ユニットでこの目盛スケールを検出すると、目盛感覚がさらに4分の1になった250nm周期のアナログ信号(正弦波信号)として出力される。検出ユニットの検出原理は格子干渉計方式であるためアナログ信号の信号歪みが非常に小さく、内挿回路を用いて高い精度でアナログ信号を内挿分割してデジタル信号へと変換できる。今回の実験では8個の検出ユニットにそれぞれ内挿回路を取り付け、アナログ信号を4096倍に分割してデジタル信号に変換した。さらに8個の角度信号に対してSelfAの自己校正機能を適用することでデジタル角度信号の角度誤差を高精度に検出することができた。
この角度誤差検出能力を評価するために開発したロータリーエンコーダーを図2で示すように産総研が持つ角度の国家標準器に取り付けて精度評価を行った結果、ロータリーエンコーダー自体が自己校正により検出した角度誤差は360°の全角度領域で±0.03″(角度秒)の精度で正しいことが分かった。ロータリーエンコーダーの取り付けを変えても同じ精度が得られたことから、このエンコーダーを工作機械、半導体の直接描画装置、精密測定器や光学部品加工機などに取り付けた後でも、SelfAによる自己校正を実施することにより、全角度領域で±0.03″の精度が得られることになる。さらにこの研究では全体の精度だけでなく、一目盛スケール内の内挿信号の角度誤差を別途計算した結果、検出位置を変えても±0.0015″(角度秒)以下であることもわかった。
図1:マグネスケールが新規開発した直径167mmの目盛スケール(一周約200万パルス)(左)とマグネスケールの検出ユニットを8個仕様した「自己校正機能付きロータリーエンコーダー」(右)
図2:今回開発したロータリーエンコーダーを角度の国家標準器に取り付けて精度評価をしている実験の様子
今後の予定
原理開発はすでにこの研究で終了しているため、マグネスケールはユーザーの利便性を考慮し検出ヘッドと内挿回路をユニット化したトータルシステムの商品化をこれから検討するとしている。また、さらなる精度改善にも取り組み、現在±0.03″(角度秒)の角度誤差検出能力を±0.01″(角度秒)まで向上させることを目指すとしている。