日本工作機械工業会(会長=飯村幸生 東芝機械会長)が1月9日、都内のホテルニューオータニで賀詞交歓会を開いた。
「世界の工作機械産業を巡る環境は大きな技術的変革期を迎えている」
あいさつに立った飯村会長は、日頃のお礼を述べたあと、「昨年は令和という新時代の幕開けを迎えたが、世界では中国をはじめ米国や欧州でも経済が減速した。米中対立やブレグジッド問題への対処が長期化し、中東を始め世界各地域での地政学的リスクも顕在化し、世界的な自国中心主義の高まりが感じられた。日本国内では自然災害が相次ぎ、令和時代は波乱の船出となった。」と昨年を振り返った。
工作機械産業を取り巻く環境についても触れ、「世界の主要各国で高齢化が進展し、労働生産性は伸び悩んでいる。潜在成長力が低下していく中で、世界のものづくりを担う製造業は技術面、需要面で大きな変化の時期を迎えている。IoT関連では、AI技術の発展と5Gの普及に伴い、技術革新がさらに加速していくだろう。自動車業界におけるCASEやMaaSといった電動化、自動化、サービス化の潮流がサプライチェーンに大きな影響を与えていくのは必然。多くの国では製造業における人材不足の問題から省人化技術の高度化が求められている。2015年の国連総会で採択されたSDGg(持続可能な開発目標)の理念が世界各国で取り入れられ、企業活動の指針ともなりつつある。」と述べたうえで、「工作機械業界関係者は、IoTを活用したスマート・マニュファクチャリング技術、AI技術、三次元積層造形技術、少子高齢化時代に適応した自動化技術、ターンキー技術など、各方面にわたって持続可能な開発に資する技術の進化と発展に努める必要がある。競争軸はいまや加工精度、剛性、IoT対応などの単なる機械性能から、工程集約や自動化、生産体制の構築、あるいは地域特性に合わせたカスタマイズなど生産設備全体のエンジニアリングの提案力にシフトしつつあり、激しい変化の時期は、競争環境が激化する優勝劣敗の局面でもある。技術革新や競争軸の変化をビジネスチャンスとして、世界市場でプレゼンスを向上させることが求められている。」との見方を示した。
2019年の工作機械受注額については、「一昨年は1兆8000億円をこえる空前の受注額を記録し、太陽の沈むことのない極北の白夜を思わせる体験だった。昨年の受注環境に、1年前の賀詞会では、山から次の山へ尾根伝いに歩いているところ・・・と申し上げたが、世界各地の景気後退に加え、米中貿易摩擦の長期化が設備投資の下押し圧力となって尾根道は急な下り坂となり、白夜から一転して寒さが募る中で、日暮れを迎える思いだが、2019年の受注総額は年間修正見通し1兆2500億円に届かず下回る水準に留まったと見込まれる。」とした。
2020年の受注額見通し
2020年の受注見通し額については、「世界経済・社会を形作っている枠組みに対する国家間の齟齬が予見される中、中国経済の動向や秋の大統領選に向けた米国の政治・経済状況、欧州情勢、地政学的緊張感等、世界の政治経済の行方が見通しづらい状況にある。」としたうえで、内需については、「政府の経済対策による景気下支え効果や、自動化・省力化投資の発現が見込まれ、また、半導体製造装置では5G関連の投資が一部期待される。」とし、外需についても、「欧米では米中貿易摩擦の影響や先行き不透明感から総じて軟調に推移するものと見込まれる。アジアでも中国経済と関係の高い諸国・地域では停滞感が続くが生産拠点が中国からシフトしている国や中国経済への依存度が比較的低い国からの受注は持ち直していくと見込まれる。」と期待感を滲ませた。
飯村会長は、「今は目先の受注に一喜一憂せず、各社のありたい姿に向けて、なすべきことをやり遂げる時期。」と感想を述べ、2020年の日工会受注額ついて、1兆2000億円の見通しを示した。
「新たなイノベーションを」
来賓を代表して宮本周司 経済産業大臣政務官があいさつをした。この中で宮本政務官は、「いよいよ東京オリンピックまで200日を切り、前回の大会においては戦後復興を成し遂げた日本の姿を強烈に世界に発信をした。あれから56年が経ち、今回、この東京で再び開催される大会を前にAI、IoTといった先進技術を核として様々な課題に挑戦をするソサエティ5.0のもと、新たなイノベーションを生み出していかなければならない。今、われわれはそこに向かって突き進んでいるところである。安倍内閣が発足をして8年が経つ。確実に経済の好循環が生まれていると認識をしている。ただ、一方で日本を取り巻く世界の政治、また、経済の環境は様々な変化を遂げている。われわれは、ものづくりを核としてしっかりとした経済の基盤をもう一度つくっていかなければならない。」と意気込みを述べた。