美濃加茂製作所の第一工場、第二工場がデジタル統合を果たした。2つの生産拠点のあり方を見直し、「Mazak iSMART Factory」としてスタートする。第一工場を「組立」「管理部品」に、第二工場を「部品加工」にそれぞれ専用化し、IoTやAIの力を活用しながら今後事業を展げていく。最終目標は「生産スピードを1.5倍向上させる」ことだ。新しい100年に向け、就業人口の減少を反映して導入が進むロボットの保守に対する目配りも忘れてはいない。
美濃加茂製作所 iSMART Factory へ進化! 第二工場は部品加工専用に
業務効率を高める上で注目されるのが、ムダ・ムリ・ムラの撤廃である。確か、国内自動車大手も標榜していたように記憶する。例えば、重複する作業内容を見直し、得意の分野で活躍させ、後に集約することが考えられる。そこで、マザックは第二工場を部品加工専用とする英断に達した。特長は次のとおりだ。
第一に、コントロールセンタと加工現場をつなげ、すべての加工機械のリアルタイムな稼働環視とアラーム情報等の一元管理が可能になったこと。「Mazak AUTO FLEX CELL」の導入も見られ、多品種少量生産の長時間無人運転を可能にする次世代自動化ラインとして、自動化対応複合加工機「INTEGREXi-450HS」4台と多関節ロボット2基で構成している。AGFL(無人フォークリフト)が長大な「MAZATEC SMS」(自動倉庫機能を備えたパレットストッカータイプの大規模自動化システム)や「MPP」(マルチパレットストッカータイプの自動化システム)の間を往き来し、完成品や治具、工具の自動搬入出を行う光景は実に近未来的だ。また、画像処理による段取り支援システム「SMOOTH PHOTO SETUP」の導入により、段取り時間を大きく削減することことができた。段取りはこれまで加工機の中で行ってきたが、新システムは一度セットされた状態を画像で残し、そのアウトラインを次の対象物に応用するもの。機外で段取りを行うため、機内での加工作業はそのまま停止することはない。生産性向上は目に見えて明らかだ。
第二に、AM(アディティブマニュファクチュアリング)を加工現場に導入し、リードタイムの短縮とコスト削減を図ったこと。従来、切削→焼き入れ→切削→研削の一連の工程をそれぞれのマシン複数台でこなしてきたが、今般ハイブリッド複合加工機「INTEGREX i-200S AM」を導入したことで研削前の3工程に要する時間はわずか1日に。実に10日間のリードタイム短縮を実現し、驚異的な躍進となった。
第三に、「これがまったく新しい取組み」とするRFID(無線電子タグ)とAGFL(無人フォークリフト)を活用した工場内及び工場間の物流管理と仕掛品の最適化である。RFIDは第一工場にも導入されており、第一第二双方の工場で位置と数量、滞留期間を確認して、個々の部品を適正に配置し、仕掛品の削減を図るものである。部品が適正に配置されていない場合に色分けして知らせるアラーム機能を備え、それぞれの工場内の、あるいは両工場間の的確なデリバリーを約束している。その名を「ID TRACKING PLUS+」という。一方、AGFLは夜間の作業と省人化をねらったシステムで、素材や完成品、切粉を適材適所に搬送するため、今年3月に導入された。現在3台を有し、今後は台数を増やしていきたい考えだ。こうして、第二工場はショールームの役目を果たしつつ、しっかり事業を前進させている。
第一工場はエコ&クリーンな恒温組立専用工場 ZDT on Mazak iCONNECT」がめざすもの
特長の第一は、最新の空調設備とエネルギー管理システムによってCO2排出量を約30%削減し、LED照明化によって照度600lx以上を工場全域で確保している点。クリーンな環境を実現した。第二は、組立エリア全域を±1℃以内に温度管理した大規模恒温工場であること。そして第三に、組立と検査に関する記録をデジタルデータ化することで品質およびトレーサビリティを向上させた点が挙げられる。組立と検査に関するあらゆるデータを作業者がタブレット端末へ入力することで製品情報の検索も容易になり、調査が必要になった場合、その追跡が可能になるほか品質の安定化につながる。
第一工場と第二工場のデジタル統合により、リアルタイムでそれぞれの進捗状況が管理できるようになった。目標は「生産スピード1.5倍向上」、市場の要請に応える。
製造現場では今、労働人口の減少や熟練作業者の不足への対応とさらなる生産の効率化を目指して、ロボットの導入が進んでいる。一方で、ロボット1台のトラブルが生産ライン全体を停止させてしまう懸念から、ロボットに対する保守サービスのニーズが高まっている。
ファナックとシスコシステムズは2015年、ロボットに対する保守診断機能「ZDT(ゼロダウンタイム)」のクラウド対応を開始した。同年よりマザックもシスコシステムズと工作機械のIoT化に関する協業を進めており、2018年、コネクティッドサービス「Mazak iCONNECT TM」を発表、2019年よりサービスを始めた。「ZDT」と「Mazak iCONNECT TM」はともにシスコシステムズのプラットフォームで構成されていることから、今回機能連携が実現した。
「ZDT」は壊れる前に知らせる予防保全を重視したシステム。壊れてしまってからの復旧コストと作業者負担の観点からも重要である。「Mazak iCONNECT TM」は不測のマシンダウンを防ぎ、仮にマシンダウンが発生した場合でもプラットフォームを通じてファナック製ロボットに「ZDT」の保守サービスを提供する。
テクノロジーのその先へ
第一工場入口に、技術が織り成す未来に価値を求めるマザックの理念を具現化するような「サンダーバード」が展示されている。TV番組「サンダーバード」はスーパーメカを駆使して、地球規模の災厄から人々を救出する物語。軽快なマーチングに乗って各号機が救出に向かうシーンは感動的で、正義感に燃えるキャラクターたちの活躍ぶりに胸が高鳴ったことを覚えている。CGなど無い時代のこと、各号機が持つ秘密めいた性能の魅力もさることながら、人形の精巧な動きに見入ったものだ。この番組が放映されたしばらく後、「人類の進歩と調和」をテーマに大阪万博が開かれた。夢の未来形として出展された動く歩道やモノレール、リニアモーターカー、電気自動車、携帯電話、缶コーヒーなどはことごとく実現され、テクノロジーによって未来がもたらされた形だ。
今日、ものづくりの現場でIoTやAIをはじめとする新たなテクノロジーが注目されているが、大切なのはテクノロジーそのものではなく、テクノロジーの先にひらけた未来の姿であるだろう。「サンダーバード」も大阪万博も、目指したのは未来であり、人類の幸福だった。マザックも同じ地平を目指す。創業100年。また新しい100年がスタートしたが、「技術で社会や未来に貢献する」姿勢は変わることがない。
(文・写真:ワカバヤシヒロヤ)