宇宙機の安全航行を目指し、スペースデブリ(宇宙ごみ、デブリ)除去サービスに取り組む、アストロスケールホールディングス(CEO=岡田光信氏)が、このほど、2020 年半ばの打上げを予定するデブリ除去実証実験機「ELSA-d(エルサディー)」の詳細設計審査やサブシステム単位での各種試験を経て、衛星システム組立・試験(AIT:Assembly, Integration& Test)に移行していると発表した。
ELSA-d プロジェクトマネージャー飯塚 清太氏は、「ELSA-d プロジェクトが、衛星システムの組立・試験へと重要な局面を迎え、着実に進行していることを喜ばしく思っている。同プロジェクトは、前例のない非常に複雑なランデブ・ドッキング及び近接運用の実証実験を宇宙空間で行うもで、この革新的なミッションが、軌道上の持続性確保へ寄与する第一歩となることはもちろん、従事するエンジニアにとって、大変刺激的な挑戦であると捉えている。」としている。
民間で世界初となるデブリ除去実証実験機「ELSA-d(エルサディー)」は、捕獲機(約180kg)と宇宙ごみを模擬した人工衛星(約20kg)を結合した状態で低軌道へ打ち上げ、軌道上において、難易度の高い捕獲実証実験を行う。磁石を用いた複数回に及ぶ捕獲とリリースによって、接近(相対航法)、診断(近傍制御・作業)、捕獲(ランデブ・ドッキング)、捕獲後の軌道変更まで、デブリ除去に必要なコア技術を一連のシステムとして実施する。
ランデブ・ドッキングの内、国際宇宙ステーションと補給船「こうのとり(HTV)」などで見られるような「協力接近・捕獲」の技術実証例はこれまで存在していたが、同プロジェクトが実施する「準協力接近・捕獲」は、捕獲対象の姿勢制御や捕獲対象が通信機能を持たない条件下となり、世界でも初の試みとなる。
また、実証では将来の商業サービス提供の際の顧客要求や想定条件を見据えており、具体的には、捕獲対象を意図的に回転させることで、姿勢制御機能を失いデブリ化した人工衛星の状態を意図的に生み出したり、捕獲対象を相対航法センサーの視野から敢えて見失わせ、ドッキングプレートや捕獲機搭載のカメラや光学センサー等により、軌道位置の特定や接近が可能なことを実証する。
低軌道での大規模コンステレーション計画の勃興により、機能停止中の人工衛星と稼働中の衛星の衝突可能性はこれまで以上に高まり、さらなる衝突予測がなされている。衝突確率の増加は、現存の衛星だけでなく、今後打上がる衛星も含めた社会活動を支える衛星データ利用すらも危険に晒すことになることも予測され、同プロジェクトは、軌道上の故障機を除去することで、延いては低軌道の安全性確保へ資する重要な役割を担う。
創業者兼CEO の岡田氏は、「スペースデブリ問題の解決策は、長きに亘り議論がなされてきたが、以前に増して、世界中で解決を求める声が高まっている。ELSA-d は、デブリ低減における革新的な技術実証の一端として重要な意味を持ちながら、解決における一要素でしかないと捉えている。弊社では、宇宙が持続可能で安全に確保されるよう、そして人類が宇宙での経済活動を継承するために、法規制やビジネスモデルの確立に同時に取り組む所存である。」としている。
なお、本プロジェクトの組立作業では、バス機器(電源系、姿勢制御系、推進系、熱・制御系、計装系、通信系、データ処理系)、ミッション機器(磁石を含む捕獲機構系、航法センサー等GNC 類)を搭載後、各種環境試験を終え、出荷・打上げを迎える。捕獲機と模擬デブリは、2020 年半ばにカザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地より打ち上げられる予定。